« この厄介な国、中国(第5回) | トップページ | この厄介な国、中国(第7回) »

2013年8月17日 (土)

この厄介な国、中国(第6回)




 
夏休み読み切りシリーズ

 < 岡田英弘著「この厄介な国、中国」2001年ワック刊から >



 
古くからの隣人という幻想


 例えば、有名な話だがアメリカのマクドナルドが北京の天安門広場に開店したハンバーガーショップ第一号店は、北京市当局の理不尽な政策によって、立退きを余儀なくされた。それまでかなりの収益を上げていた店が、一片の通達によって閉店させられるという事態は、たいていの経営者にとって不愉快きわまりないことだろう。だが、そのような目に遭ったマクドナルドが中国から撤退したという話は聞かない。それどこ力で総店舗数を、どんどん増やしつつある。

 なぜ、同じ中国に進出した企業でも、日本と欧米資本とではこのように対応が異なるのか・・・・その最大の原因は、欧米人が中国人に対して、いっさいの先入観や思い入れがないという点にあるためである。逆に言えば、日本人は中国および中国人にたいして、過剰な期待や幻想を抱いているため、中国人とのビジネスに失敗してしまうことが多い。

 つまり、欧米人は中国人のやり方に接しても、「なるほど中国人というのは、そういう連中か」と学習するだけで、けっしてがっかりしない。しかし、日本人の場合、そうした中国人の「あこぎなやり方」に接すると、裏切られたという思いが先に立ち、やる気を喪失してしまう。

 日本人の中には、中国に対する抜きがたい「幻想」が居すわっている。それはなにかと言えば、「日本人と中国人は古くからの " 隣人 " である」という幻想であり、「日中は理解しあえる」という間違った思い込みである。この幻想から自由にならないかぎり、日本人はこれから先も中国人と付き合っていくことは永遠にできないであろう。これは、歴史学者としての私の実感である。

 かつてギリシアの哲人ソクラテスは「無知の知」を説いた。つまり、自分がなにも知らないという事実を認識することから哲学は始まるというのだが、日本人にとっての中国もそれと同じである。つまり、中国や中国人のことをなにも知らないのだという自覚を持たないかぎり、日本人は永遠に中国を知ることはできない。日中合弁企業が成功しないのも、日本人が中国のことを知っているつもりになっていることが最大の原因となっている。

 繰り返し強調するが、日本人は中国や中国人のことをなにも知らない。これは、中国について不勉強であるという意味ではない。

 そもそも、日本という国ができて以来、日本人は真の中国や中国人に接する機会はほとんどなかったのだから、知らなくて当然なのである。

 地理的には、たしかに中国大陸と日本列島は至近距離にあるわけだが、こと相互理解という点に関しては、日中間はほとんど絶無に等しい。このような例は世界史的に見ても、ひじょうに珍しいのではないだろうか。




« この厄介な国、中国(第5回) | トップページ | この厄介な国、中国(第7回) »

清濁」カテゴリの記事